ゲシュタルト療法学会のご紹介

 

ゲシュタルト療法の哲学的背景(現象学・実存主義)

人間の精神構造や発達の仕方、病理の仕組み、心理的治療法を初めて体系的に示したのは、1900年の「夢の解釈」刊行によるS,フロイトS.Freud の「精神分析」である。それから、ほぼ50年間は精神分析とヴント W.Wundtによる実験心理学(1879)の条件反射や道具的条件付け(オペラント条件付け)を基にした行動主義の療法が主であった。

 「人間とは何か。真善美とは、本質とは何か。」等の模索は古来から行われ、人間を超えた理想や真理を想定して考察されていた。ところが、エドムント・フッサール E.Husserlは1900年に「論理学研究」を刊行し、現象学的手法を紹介した。これは従来のように「事物の本質や真理とは何か」を考察の対象にせず、それらが人間の意識の中に現れている心的な内容(現象)が、どのような在り方をしているのかを考察することで、人間の認識のあり方や確かさを明らかにしていこうとした。それは、今までの知識や判断を一時停止(エポケー)して、現象の現れをそのまま記述(現象学的な記述)していき、事物の在り方と人間の存在とはどう違うか等を探求していく。そして、それ以上遡って探求できないという最後の認識の底(内在知覚)を見出し、確認していくことであるとした。

1913年には「現象学年報」が刊行されるなどして、現象学運動にまで展開した。こうした中でハイデガーM.Heideggerはフッサールの下で現象学を学び、現象学的手法によって「存在への問い」を行い、1927年の現象学年報に『存在と時間』を発表した。これによって「現象学と存在論を緊密に結びつけた実存哲学」がうちたてられ、この実存論が「実存は本質に先立つ」(サルトル)とした実存思想として世界に注目された。

ハイデガーは、人間を「現存在」(ダーザイン)と定義づけた。「現(ダー)」とは「今、ここに」と言う意味であり、人間は「今、ここ」に「自分はどのように存在しており、どのような存在として在りたいか」を問う存在であるとする。そして周りの事物を自己の欲求・関心からそのつど「道具」として意味づけ(「世界内存在」という)、事物や動物とは違う在り方をしているという。このような在り方を「実存」=「現実存在」とよんだ。

実存思想は心理療法に、精神分析や科学的・客観主義的心理学とは異なる新たな視点を提供した。実存思想を基にした心理療法のアプローチは、因果論や先入観を排除し、「私の実感」を根拠として、クライエントに応答可能な対等の人間として出会っていく。人間は自己決定能力を持ち、当人にとって意味のある行為を選択し、その行為の責任を引き受けていく存在であるというものである。

このアプローチを基に1950年前後からゲシュタルト療法、来談者中心療法、TAなどのカウンセリングやセラピーが出現し、心理療法の第3勢力となった。なかでもゲシュタルト療法は実存思想的である。当療法はゲシュタルト心理学の「ゲシュタルト」の考え方から「全体としてまとまる力」に注目し、心理的なホメオスターシスを発見し、「未完の行為」や「人格の穴」の「統合」などの知見を得た。そしてワークショップは実存思想を個人の生き方に実現させていく方法であり、そこで実存的に“生きる”ことを試みる実験の場として提供されている。

(田中 幸治)

 

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